ASTLE ON THE HILL.

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「丘上の城」



 草原に走る一本の道をどれほど行っただろうか。遠目に見えていた青々とした林は、いまや正面にそびえるものとなっていた。背の高い木々の間に開けた空間のなかへ、道がまっすぐに入ってゆくのが今となっては目に見える。同時に道はゆるやかな勾配にさしかかり、自分が乗る馬の背もわずかばかりに傾きを見せる。
 イザクは腰をずらして姿勢を整えた。すぐ前に横座りに腰かける娘に手を回し直し、彼女が安定して身体を自分に預けられるようにする。
 毛布にすっかりくるまれた腕の中のアマリエは、しばらく前から眠ったように瞼を閉ざしていたが、イザクの腕の感触を感じたか、わずかに目を開けて彼を見、微笑した。
 イザクは視線を前に戻し、注意深く馬を進ませていく。
 クリッサの屋敷での出来事から二月が経っていた。季節は初夏にさしかかり、今日も肌が汗ばむほどの陽気である。だがアマリエの頬に赤みはない。もとから華奢だった身体はこの二月の間にいっそう軽くなり、力を込めれば枯れ枝のようにぽっきり折れてしまいそうに脆い。まるで内部の肉や血が彼女の身体から日に日に逃げ出していくようだった。
 それでもクリッサに渡された咳止めと体力増進の薬はよく効いたようで、しばらくは調子のよい日が続いていたのである。だがその後に出た熱がなかなか下がらず、アマリエは数日間を朦朧とした意識のままに屋根裏で過ごした。熱の波がようやく引いたのは、ようやっと七日ほど前のことである。
 そんな時期であったから、アマリエが丘の上の城に行きたいと言い出したとき、みな目を剥いて反対したものだ――実のところ、最初は高熱が呟やかせるうわ事と、みな本気にすら取っていなかった。しかし彼女の意識がしっかりしてきてからも、アマリエは丘の上に行かせてと事あるごとに繰り返したのだった。
 馬鹿を言うんじゃないと、アマリエの母親ヴェラは何度も諭したそうだ。ろくに床(とこ)から起き上がれず、微熱とは言え完全に熱も下がらず、わずかの粥と果物以外の何も口にできないような状態の彼女が、行き帰りに二日もかかるような場所に行けるわけがないと。兄ペトルも強く反対した。それでもアマリエは、行かなきゃならないの、待てないの、とそう繰り返すばかりだったのだそうだ。
 イザクがヴェラから相談を受けたのは、ほかでもない、アマリエが彼と一緒に行く事を強く望んでいたからである。頑として譲らないアマリエにほとほと困り果てたヴェラが、後生だから何か言ってやってくれとイザクに頼み込んできたのだった。当然の事ながらイザクはアマリエに無理だと伝えた。そして、生まれ変わりだの夢だのの話はもう忘れろと付け加えた。だがアマリエは落ちくぼんだ瞳を気だるげに細めつつも、精一杯の気力を振り絞るかの様子で、お願い、と繰り返した。
 行きたい。駄目だ。――やりとりは平行線を辿った。最終的にはアマリエが一人で歩いてでも出かけると言い出したので、イザクは折れるほかなかったのだった。彼が屋根裏部屋から降りてその旨をヴェラに伝えると、彼女は深い溜息をついただけで、もう何も言わなかった。
 そんなわけで、ペトルが隣の家から借りてきた馬に乗って、イザクとアマリエの二人はその日の朝、丘へ向かって出発したのだった。すでに時刻は午(ひる)を回っている。目的地はすぐそこだった。この傾斜を上りきった場所に、くだんの城が建っている。
 「……ね、木こりさん」
 しばらく黙っていたアマリエが口を開いた。小さな、かすれた声だった。――数ヶ月前に彼女の口調に満ちていた快活な張りは、先だっての高熱以降、失われてしまっていた。あるいはずいぶん前から、彼女は無理にでも明るい口調で喋ろうとしていたのかもしれない――気丈な娘である。ただ今となっては、体力の衰えを覆い隠すだけの力がその細い身体に残されていないのだった。
 「……ペトル兄さんね、この秋に結婚するの」
 「ああ」
 その簡潔な応答にアマリエは少しイザクの顔を見てから、青々と葉の茂る周囲の木々に視線を戻した。
 「……わたし、ずっと兄さん子だったの。昔は一緒に虫を捕まえたり、木いちごを一緒に取ったり、……いつだって二人で遊んでたわ。母さんに内緒の二人だけの秘密も、たくさんあったの」
 独り言のように言葉を紡ぐアマリエをイザクは少し見下ろす。青白い顔の上に散った亜麻色のほつれ毛を、そよ風が揺らしていた。アマリエは弱々しく笑ってから、
 「……内緒ったって大した事じゃないのよ。綺麗な石を隠してる場所だとか……夜中に母さんに内緒でわたしが兄さんの毛布に潜り込むときの暗号だとか……他愛ない子どもの遊び。大人になったら兄さんのお嫁さんになるって、六つか七つのときはそんなことも言っていたんですって。子どもって無邪気ね。
 兄さんが年頃になって村の女の子たちと話をしたり、出かけたりするようになって、わたしこっそり腹を立てたりもしたのよ。兄さんのことはわたしが一番よく知ってるのにって……。そのときわたしはもうこんな体で、家から出られなかったものだから、おいてきぼりになった気がしたわ。でも、昨年の冬に兄さんが婚約したときは、祝福してあげたいって、ただそう思ったの……」
 アマリエは語尾をかすませて、目を閉じた。しばしそうして馬の歩みに身体を委ねてから、彼女は瞼を閉ざしたまま、
 「どうしてかしら」
 と言った。
 イザクは彼女をしばらく見た。アマリエは続けて喋る様子がなかった。ただ首をわずかに傾げ、梢の間から差し込む緑に染まった光をゆったりと受けているだけだった。
 林を突っ切るその広い道のところどころには草が不均等に生い茂り石が転がっていた。城が落ちて以降は数少ない人間が物見遊山に訪れる程度であったのだろう。揺れる馬の背中でイザクがもう一度姿勢を整え直したあたりで、道の向こうに林が開け、重厚な石壁を覗かせているのが見えた。
 なるほど丘の上に建っていたそれは、城としては小さなものだった。都の王城と比べるべくもないのはもちろんとして、イザクが目にした事のある他の貴族の城と比べても、二回りも三回りも小さいように思える。さらには、城としての外観こそとどめていたものの、その雰囲気は完全に廃墟のものだった。かつて壁を一面に白く覆っていたであろう漆喰は、焼き討ちのためか、あるいは風雨に晒された年月のためか、完全に剥がれ落ちてごつごつした灰色の石肌を露出させていた。正門部分の上を飾る女神のレリーフは灰色に煤け、かつて城の訪問者に差し伸べられていたであろう大理石の腕も今やどこかに折れ落ちて、その慈愛に満ちた表情も哀愁を帯びて見えるのだった。
 城の壁石のはざまには、ところどころに苔が茂り草が根付いている。塔のてっぺんを飾るとんがり帽子状の屋根の横のそこかしこでは、何羽かの山鳩がくるくると喉を鳴らして怪訝そうにこちらを見ていた。
 静かだった。二百年以上も前に打ち捨てられ朽ちかけたその城は、青い空と小鳥の声と、やわらかな緑と小さな野花の数々に包まれて、ただひっそりと建っていた。
 馬を下りた二人は、城の正門があったとおぼしき虚ろな空洞を抜けて中に足を踏み入れた。もともと大広間であったらしいその空間は、今はがらんとして薄暗く、床には瓦礫が転がり、外から風に運ばれてきた草の種が根付いて小さな花を咲かせていた。
 ゆっくりとあたりを見回したアマリエは長く嘆息し、それから少し咳き込んだ。
 イザクは懐の水袋をさぐった。だが帰りのために水は残しておいた方が、……
 「木こりさん」その動きを察したか、アマリエは口を抑えつつ、「ね、あの林の中に……この門の反対側の林を少し入ったところに、湧き水があるはずだわ」
 イザクはアマリエの顔を見つめた。彼女は困ったように微笑んで、「覚えてるの」とそう言った。
 イザクは少し躊躇した。だが日はまだ空高く、周囲は静かで、危険はなさそうだった。いずれにせよ、ごくわずかな時間で彼も戻ってくるのだ。
 「わかった」と彼は言った。「ここを動くなよ、アマリエ」
 アマリエはにっこりと微笑んだ。







 イザクとアマリエの二人がそうして丘の上の城に足を踏み入れた、ほぼ同じ頃、ツァランは都の王立図書館で苛立ちにペン尻を噛みしめていた。
 この文書室に通いつめて、すでに二月が経過しようとしている。
 それなのに、探しているものが見つからない。
 バルタ家の系譜、王家の執政の記録書、貴族や王族間の個人的な文書のやりとり――文書室の書庫に残されている記録のうち、思いつく限りのありとあらゆるものを探してなお、アルジェベタの名はどこにも出てこなかった。ただ<赤の飢饉>より十九年前にバルタ家に女子が生まれ、祝いの席が催されたという記述がたった一文見つかった、それだけである。
 アルジェベタのものだけではない。バルタ家の人々の記録のほとんどは、<赤の飢饉>よりさかのぼって少なくとも二十年間のものはみな散逸してしまっている。混乱時代の王国を立て直すに貢献した大主教ミロシュ・バルタですら、その生い立ちや若き日の姿について記したものはほとんどない。言うなれば、<赤の飢饉>前後二十年のバルタ家の歴史自体が、すっぽり空白になっているのだった。
 それは不自然な空白だった。なにか人為的な臭いのある――なにか大きな力が確かに関与したことを匂わせる。
 つまりはその空白こそが、そこに何かがあったことを示す証拠なのだ。
 そうとわかっていても、ツァランは満足がいかなかった。彼が探しあてたものすべては、彼が欲するものの周囲に散漫にきらめいているだけで、何かひどく肝要なものを欠いている。
 ――もうひとつだけでいい、……
 中央にぴたりと嵌る何かひとつのものを求めて、彼はこの一月あまりを過ごしているのだった。
 今また一綴じの文書をなんの成果もなしに調べ終え、とうとう苛立ちの頂点を迎えたツァランは、冒涜的な罵りを吐き捨て、がんと机の足を蹴りつけた。飴色に磨き抜かれた巨大な文書机が揺れ、同じ机の少し離れた場所で写本の作業にいそしんでいた幾人かの若い学士が驚いたように顔を上げる。
 悪いことに、王立図書館のローブをまとった学士が一人、ちょうどそのとき文書室に足を踏み入れていた。やや年のいった、厳格そうな顔立ちのその男は眉をひそめ、両手いっぱいの文書を抱えたままにツァランのほうへ足を向けてきた。
 「ご静粛に!」
 ツァランのすぐ横に立った学士は、非難のこもったささやき声でツァランに耳打ちした。「またあなたですか。机を蹴らないでいただきたいと以前もお伝えしたはずだ。写本に支障が生じるのですよ」
 「申し訳ない」
 ツァランはいらいらと言い、指を上げて謝罪のしるしを示し――それから、ふと学士が机にいったん預けた文書の束に目を留めた。
 「それは?」
 学士は怪訝そうにツァランを眺めつつも、
 「寺院の告解に関する文書です。二百年より以前のものが寺院からこの文書館に移される事が決まりましたので」
 告解――己が罪を主の代行者たる司祭に告白することによって、ゆるしと贖罪を求める寺院の秘蹟である。ツァランは眉をひそめた。「しかし耳にした告白について他言する事を司祭は固く禁じられているはずでは?」
 「もちろん、個々人の告白について詳しく述べたものではありません」学士は未綴の紙の束を重そうに抱え上げた。「告解の一般的な傾向について、その後の民への教えの参考にするべく司祭の間で話し合う事があるそうです。そのための報告書や私信の類いですね」
 ツァランは顎を撫でた。興味深い、と彼は思った。
 ――非常に興味深い。
 「見せていただいても?」
 「しかし、これを正式に閲覧するためには寺院の許可証が……」
 「ぼくがこの王立図書館の文書整理にも携わっているのはご存知でしょう?」とツァランはすばやく学士の言葉を遮って、「所蔵文書の概略を把握していればいるほど、そちらの仕事の効率も上がる。……ご心配なく、どんな文書かざっと眺めるだけです。長くはかからない」
 「わかりました」学士は溜息をつき、「本日中のみ、ということでお許ししましょう。だがまあ、スキャンダラスな書類ではありませんよ」
 学士が去っていった後で、ツァランは目の前に積み上げられた紙の束に目を戻した。長い年月のなかで紙は茶色く劣化し、端のところどころが破れかけている。一度深呼吸をした後に、ツァランは一番上の書類を破かないよう注意しつつ持ち上げた。内容に素早く目を走らせ、その後すぐに横にのけ、次の書類を手にとり、……


 夕刻、文書室を閉めに来た先ほどの学士は、すっかり暗くなった部屋の中にぽつんと一人だけ残り、古ぼけた紙の山を前にしているツァランを見つけ、呆れたように言った。「まだいらしたのですか」
 もう閉めますよと言おうとしたらしい学士は、ツァランの顔を見て眉を寄せた。「お加減でも?」
 その声を聞いて、ツァランは自分が異様な昂(たかぶ)りを表情に出していた事を知り、口元に手を当てた。
 「いえ、失敬。少し考え事を」
 声が上ずる。
 「いや……もう終わりました。ご厚意感謝します」
 目の前にある、一枚の古い手紙。
 ある司祭の手で書かれた私信。
 興奮が腹の底から身体を這い上がってくる。
 ――あった。あった。あった。あった。
 彼の探していたものが、あったのだ。







 広間を出て行くイザクの背中を見送って、アマリエはもう一度、廃墟となった城の内部を見渡した。ただ部屋の造りだけは彼女の記憶と一致していたが、思い出すことのできる大広間――品のいい壁紙に包まれ、美しい絵画とびろうどのカーテンに覆われ、古代の彫刻が部屋の四隅に立って訪問者を迎え入れる――その大広間の面影は、どこにもなかった。いま彼女の目の前に広がるのは、破壊され、幾年(いくとせ)も放擲(ほうてき)された結果、ただの石の塊と成り果てた何かに過ぎなかった。
 アマリエはふと横の石壁に小さな色彩を感じ取って、そちらに歩み寄った。わずかに石壁にこびりつくようにして残っていたのは、壁紙の小さな名残だった。色あせていながらも、たしかに記憶にある花模様にそっと触れたそのとき、アマリエは深い哀しみに襲われた。
 そのとき彼女は悟ったのである――彼女の記憶にあるすべてはとうの昔に失われてしまったということを。本来ならば時代とともに生き人とともに死ぬべきその記憶だけが、ただ運命の気まぐれないたずらで、何百年も後になってアマリエの中にふと生き返ってしまった。その記憶を胸に携えて、だがアマリエになすすべはないのだ。次々と脳裏に蘇る美しいイメージに最初は心を躍らせていた彼女も、そのイメージが漠然とした寂しさを日に日に強く呼び起こして行くのを感じ取らざるをえなかった。そしてその寂しさは今この瞬間にはっきりと、深い喪失感となって彼女を打ったのだった。
 当初アマリエを脅かしていたのは赤と黒の奇怪な恐怖だった。クリッサに導かれた儀式のなかで自分が何を言ったのか、彼女は覚えていない。ただその後のイザクの反応から、それが幸福な記憶ではなかったと漠然と察しえたのみである。そしてあの儀式から目を覚ましたとき、彼女の心を悩ませていたえたいの知れない不安と恐怖はどこかに去っていた。そしてその同じ場所に、虚ろな穴がかわりに開いていたのだった。
 それは寂寥(せきりょう)の空洞だった。
 自分がなぜここに来たいとあれほどまでに願ったのか、今となってはよくわからない。ただ、かつての自分が生きた城をもう一度目にすることで、自分の心にぽっかり開いた寂寥を癒せるかもしれないと、おそらくそう思ったのである。だが、みなの反対を押し切り、わがままを通し、イザクに無理を言ってまでここに連れてきてもらった今、彼女が確認したのは、けして取り戻すことのできない時間のなかに自分の半身が生きつづけているという、そのことなのだった。そしてこの横壁に残る壁紙の切れ端のように、永久に消え去ったものの色あせた残滓だけを、彼女がただ抱きしめているということなのだった。
 アマリエは顔を両手で覆い、自分を満たしてゆく深い哀惜の色を感じた。一度として目にした事のないはずの光景への、胸を引き裂くような懐郷の痛みに、ただ目を瞑り唇を噛んだ。涙は出なかった。それは浄化されうることのない哀しみだった。
 そうしてしばし、ふと顔を上げたアマリエは、広間の隅に上へ繋がる階段が開けているのを見つけたのである。
 ――ああ、そうだ。覚えている、ここに階段が、
 ――わたしの部屋。
 ――アルジェベタの。
 よろめきながら、アマリエは階段へと足を向けた。
 暗い階段は崩れかけ、瓦礫に覆われていた。加えて減退した体力のために、一階分を登っただけでアマリエの息は完全に上がってしまった。彼女は二階の踊り場でしばし息を整え、それから震える手を壁に這わせて身体を支えながら、一段一段を昇り、さらに上を目指した。
 三階の踊り場からは、細い廊下が横に伸びていた。木の扉はすべて焼け落ちて失われ、各部屋の入り口から外の光が廊下に差し込んでいる。
 ――たしか、一番奥の部屋。
 奥にたどり着いた彼女は、部屋に足を踏み入れた。そこはがらんとした灰色の空間で、「彼女」が寝起きしていた豪奢な天蓋つきの寝台も、足を包み込む絨毯も、すでに存在しなかった。彼女は目を細め、息を吐いた。ゆっくりと室内を見回し、それから奥の窓へと足を向ける。
 そのときだった。
 胸の奥から突如、何か分厚いものがせり上がり、彼女の気管を塞いだ。アマリエは驚き、大きく咳をして息を落ち着けようとした。だが咳すらも喉の奥でつかえて出てこない。彼女は目を見開き、喘ぎ、空気を求めて喉を抑え、宙を掻いた。強い目まいがして立っていられない。アマリエはよろけ、近くにあった窓の桟に倒れかかるようにしてくず折れた。喉と胸の奥が焼けつくように熱い。
 ――苦しい。息が、
 咳ともつかない空気がごぼっと肺の奥からようやく押し出され、同時に口に鉄臭いものが押し寄せた。二度、三度、痙攣のような咳を繰り返したさいに、口を抑えた指の間から鮮血が衣服と床に飛び散った。
 ――息が、誰か、
 彼女は血に濡れた手で窓枠を掴んだ。そして、外の空気を求めて身体を引きずり寄せた彼女が、窓から顔を出したまさにそのとき――その朦朧とした意識の前に、あるひとつの景色が開けたのだった。
 何もかもが失われた中で、たったひとつだけ変わりなく存在しつづけた光景が。
 そして、アマリエはすべてを思い出したのだ。







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