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「いるかは海の怪物である。声を持たないが、嵐の前に人のような声で歌を歌う。捕らえられるとすすり泣くとも言われている。(中略)彼らは140年以上もの寿命を持つ。竪琴やリュート、笛のしらべを好み、海上でこれらをかき鳴らすと波間に浮かび上がって聞きほれるという。」
― Konrad Gesner, Historia Animalia (1604)

 上の図は中世において「いるか」であると信じられていた海の生物の図である。東洋の伝統における王座の象徴たる神獣「麒麟」(キリンビールのラベルのアレ)と、現在「キリン」と呼ばれている首の長い哺乳類が「同じもの」ではないように、西洋の伝統においても、中世の叙事詩や物語のなかでしばしば登場する海の生物「Delphinus」は、現在海洋哺乳類として知られる「dolphin」とかならずしも「同一」ではない。ただし、これより数百年古い時代の絵でもわれわれが知る哺乳類の「イルカ」を忠実に描写したものもあるので、かなり認識に差があったようだ。上の本でも、絵はともかく、記述としては哺乳類の「イルカ」とそんなにギャップないもんね。ピイピイ鳴くし。140年とはいかなくとも、20年くらい生きそうだし、イルカ。

 西洋を旅行して歩くと、銅像・木像・石像の台座装飾として、この「いるか」がモチーフとして用いられているのによく出くわす。教会に収められた棺の装飾などでもまれに見るが、とくに広場の噴水などに多く用いられている。鷲、竜、獅子ほどではないにせよ、権力や富、王座を象徴する生物(神獣)のひとつではあったのだろう。とくに港湾都市においては。





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