コラム


媚薬についてあれこれ
でも媚薬の効果的な使い方とかじゃないので役には立たない




 『妖精環』においてクリッサが言及していたハシリドコロ(走野老とも書く)はナス科の植物で、別名をオニヒルグサヤ。塊状の地下茎は鎮痛作用をもつものとして漢方薬などに用いられる。摂取すると含まれる化学物質のために瞳孔が散大する。地下茎以外にも植物全体に有毒成分が含まれる。
 マンダラゲはチョウセンアサガオの別名で、多年草と一年草があり、このうち一年草の洋種にダチュラがある。朝顔によく似た淡い紫色あるいは白色の花をつけるが、ヒルガオ科ではなくやはりナス科の植物である。基本的に毒草と知られ、葉や種子からの抽出物が麻酔薬や鎮静薬に用いられるようだ。ハシリドコロと同様、摂取すると、口の渇き、瞳孔散大、消化管運動の減少、尿閉などが起こるという。ちなみに、尿閉とは尿道の狭窄などにより膀胱内にたまった尿が排出できなくなる状態のことで、「おしっこしたかった気分がどっかいっちゃう」とはちょっと違う気もするが、まあご愛敬と思ってほしい。
 ダチュラは某小説家のデビュー作の中で記憶障害をともなう催淫剤として用いられ、媚薬としていちやく有名になった植物だ。ちなみに、当サイトがかつて細々とブログ公開していたときに、グーグル検索でもっとも頻繁に来訪者がやってきた検索フレーズは「媚薬 ダチュラ」であった。みなそれほどまでに関口が好きか。
 いずれにせよ、チョウセンアサガオが催淫剤として期待されるような効果をもつかどうかはどうやら怪しいようである。ただし、記憶障害を起こすことがあるのは本当らしいので、京子の多重人格ネタはあながち十割ホラでもないわけだ。
 なお、ダチュラは英語圏でも毒草として知られ、悪魔草、悪魔キュウリなどの名で知られる。「悪魔のラッパdevil's trumpet」なるダイレクトな名もある。
 マンダラゲは漢字では蔓陀羅華。梵語でのmandaravaに由来する。天上に咲くという花の名で、仏教では四華【しけ】、すなわち法華経が説かれるときに空から降ると言われる四種の蓮華の一つである。見る者の心を至上の幸福に包むと言われるこの花だが、現在チョウセンアサガオあるいはマンダラゲとして知られる植物は、麻薬的な多幸感作用はもたないようだ。

 ちなみに松茸は、時として男性器にも似るその形状から、中世・近世においてはよく強壮剤として用いられたと言われる。世界各地において、民間療法における強壮剤の材料はしばしばダイレクトな「形状の類似」に由来した。また、強い精力をもつと信じられた動物の体の各部分も強壮剤の原料として用いられた。虎の骨は漢方薬の原料としてよく知られているが、強壮剤としては虎の男性器も用いられる。民間療法はその体系そのものが、しばしば連想と機知によって支えられている。
 なお、西洋の民俗信仰で「妖精の輪」と呼ばれるものをなす菌類には、実は松茸も含まれる。松茸狩りに詳しい人なら、松茸が円を描くようにして群生する傾向にあるのを知っている人もいるかもしれない。
 あと、松茸は欧州でも採れるらしい。ノルウェーやスウェーデンといった北欧諸国で採れるだか採れないだかいう記述をずっと昔にウェブ上のどっかで見た気がする。ほんまか?




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