コラム


えんがちょバリアとクロスド・フィンガーズ




 『妖精環』でデューラムが言及する「えんがちょ」とは、中指を人差し指にかさねて印を組み、同時に「えんがちょ」という文句をとなえることで、「バリアされた」状態になるという魔法である。INTがマイナスでも、マジックユーザーやエルフでなくとも、ソーサラーやシャーマンのレベルがなくても、誰でも使うことのできる魔法であるが、自分がガキっぽく意地悪であり、かつガキっぽく意地悪な友人たちに囲まれていないと効果を発揮しないという難点がある。これは筆者が子供の時分に非常にはやったもので、えんがちょをしていない人間に目に見えない「菌」(うんこ菌、XX菌等々、XXの部分には人名が入る)を移していくという、意地悪な鬼ごっこのような遊びとして行われていた。
 ウェブサイト『日本語の語源説』には、「えんがちょ」という言葉について「閻魔の庁」、「縁がちょんと切れる」、「因果」と関連する何がしか、などが語源の可能性として挙げられているが、この謎めいた呪文がいったい何をさすのかについてはいまだ定説がないようである。
 「えんがちょ」が「防御」の呪文であることは、少なくとも現代日本では各地域に共通しているようだが、そのさいのジェスチャーは様々のようである。上に書いたfingers crossed(中指を人差し指にからめるしぐさ)のほかに、その上でさらに両腕を交差するもの、あるいは親指と人差し指で円を作りそれをもう片方の手で切るというまったく別の仕草をするもの、などがあるようだ。色々と興味深い。

 なお、クロスド・フィンガーズの仕草じたいは欧米社会で広く知られたものである。この起源については、前キリスト社会に遡ると言われる一方で、キリスト教が弾圧されていた時期に信者たち同士のサインとして用いられたとも言われ、あまり定かでないが、少なくとも非常に古いまじないであることは確かのようである。現在でも欧米(少なくとも英語圏)では日常生活の中でしばしば目にするジェスチャーで、多くは、賭けに勝つ等グッド・ラックを祈るとき、あるいは「願わくば」の意で用いられる。このジェスチャーをせず、単に「fingers crossed」と言うだけのこともある。
 久元はかつてアイルランドを旅行したさいに、地元の初老の女性がこのジェスチャーを「妖精よけの古い迷信」と言っていたのを聞いたことがある。あるいは、イングランドで育った男性からは、嘘をつくときに背中でこのジェスチャーをすると、その嘘が免罪されるのだと聞いた。どうも、色々と地域色があるようである。

 日本におけるこの仕草の由来については、筆者はよく知らない。欧米諸国から伝わったものか、あるいは独自の歴史があるのか。読者の中にどなたか詳しい方がいれば、ご一報いただけると幸いである。





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